「劇場的春、京都」アーカイブ

「劇場的春、京都」実行委員会が2015年度より行った、京都の劇場インタビューのアーカイブを行うページです。お問い合わせは kyoto.e.season@gmail.com までお願い致します。

WEB連載 第4回「アトリエ劇研(前編)」

京都演劇の系譜をたどる劇場インタビューシリーズ

〜WEB連載 第4回「アトリエ劇研(前編)」〜

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話し手:あごうさとし(アトリエ劇研劇場ディレクター)、杉山 準(NPO劇研・プロデューサー)
聞き手:金田一央紀(Hauptbahnhof)、岡本昌也(劇団西一風)
立会い:竹内良亮(「劇場的春、京都」実行委員)

インタビュー実施日:2015年5月14日

 

新たな試み

岡本:劇団西一風の岡本です。

あごう:お久しぶりです。

岡本:お久しぶりです。

金田一:Hauptbahnhofの金田一央紀です。いつもどうもお世話になってます。

あごう:アトリエ劇研のあごうです。よろしくお願いします。

金田一:杉山さんがちょっと遅れてくるということで。
先にあごうさんに聞きたい事、言いたい事全部ぶつけていきましょう。

岡本:はい。

金田一:ラジオみたいになっちゃった(笑)まずどこから、これもう基本的な所から聞いた方がいいのかな?それとも、あごうさんだから聞けることみたいなのを聞いてったほうがいいのかな?

岡本:あ、でも僕は杉山さんがいない間に杉山さんとの違いを…聞いておきたい。
劇場運営で杉山さんとか田辺さん(※1)の頃から、年間プログラムとか、外から見ただけでも劇的に変わってるのはわかるんですけど。決定的に変わっていくのは何かっていうのが、僕はすごく気になってて。

あごう:もちろん今までの杉山さん、田辺さんとか以前のアートスペース無門館(※2)とか、今までやってきた財産というかシステムとかそういうものの上に新しくやっているというのはあります。
基本的にどういう風に運営してるかっていうのは劇研特有のものではなくて、民間劇場はどこでもそうですが経済的な基礎は貸し館なので、もちろん申し込めば誰でも使える劇場なんです。それは今でも変わらない。逆に今それをもう少し強調しなければいけないかもしれないです。そして、新しくなったのはさっきも言って頂いたとおり「年間プログラム」と「支援会員制度」があるということです。

岡本:はい。

あごう:まあこれは端的に、今までやっていないので新しいことと言えるとは思います。

金田一:今までやろうとしてたことはあったんですか?支援会員制度とか。

あごう:なんとなくそういう話が上がっては消えっていうのは聞いてます。難しいですからね、年間プログラムをまず作るっていうのが。

岡本:そうですね。

あごう:1年間のスケジュールを前の年に段取りしなければいけないというのに、どこまで賛同者がでるか、とか。それに対して劇場がどれだけ支援できるかとか、劇場がどういう考え方をもってとか、時代もありますしね。90年代と00年代と10年代はやはり全然状況が違いますから。それぞれのカンパニーのニーズとか、そもそも舞台芸術をみんながどう考えてるかとか。時代によって変化あるので。色々事情があると思います。いずれにしてもヨーロッパでは基本ありますよね。年間プログラム。

金田一:はい。

あごう:支援会員制度というのも実は色々バリエーションがありまして。私たちは2万円とか3万円とかのお金で全部見れますよという形ですが、ヨーロッパの劇場によってはパスポート形式ではなくて割引、値引きでの募集もありますし、地方の劇場だとそこに住んでる住民全員が支援しています。そのかわり(劇場が)公民館的な役割も同時に果たしているといいますか。

金田一:世田谷バプリックシアターなんかも、世田谷区の区民だったら安くなるとかそういうのありますもんね。

あごう:はい。

岡本:あ、別になんの支援もしてなくても住んでるだけで。

あごう:住んでるだけで。区民の税金が使われているので。

金田一:あ、そうかそうか。公立の劇場だから。

岡本:なるほど。

あごう:うちは民間なので新たに支持を集めないといけない。そうすることで大目的としては劇場文化というものをもう少し広く深く、持続的に定着させるための一つの制度として年間プログラムと支援会員制度っていうものがあるということです。
で、劇場文化というのは、お客さんというところに絞って言うと「一つのカンパニーにお客さんが付いて終わる」というのが現状なので、そういうことではなくて劇場にお客さんが日常的に通うという現象を起こす。そういう風土を起こすということです。そうすると元々はどこかの劇団しか見てなかったお客さんが他の劇団もみるようになったり、演劇だけではなくて「ダンスも実はありだな」という風に劇場で行われる演目になるべくたくさんのお客さんが、しかもなるべく低リスクで来てもらえると。

岡本:それは今、劇場文化に触れてるお客さんの絶対数は変わらないということですか?いろんなものを一人がみるというよりかは、新しい人が来るっていうとこに対する手だてとかは考えてはったりしますか?

あごう:そうですね、母数はもしかしたら変わらないかもしれないということですよね。
ただ、まずそういうものがあるということを関西の人は知らない。支援会員制度とチラシにぱっと書いても、よくわからない。そして次のステップとして、内容は理解したところでいざお金を払おうかとかインターネットで登録をしようかとなるにはまだ腰が重たい。そうやって段階があるから地道にやり続けるしかない。ある一定数、母数が整ったら、基本的に会員でたくさん芝居を見に来る人というのはどういう人かというと、端的に観劇意識が高い人だと言えるわけですよ。観劇意識が高い人がたくさん増えるということはその人たち自体が今度発信していく可能性が出てくるということです。あの芝居面白かったよとか。SNSとかで広まりやすいですし、あるいはそういう人達のコミュニティみたいなものが独自にできる可能性ってのもありますし、場合によっては批評家が出てくる可能性もあります。そうすると演劇にまつわる作家等の言論だけではなくて、環境とか都市の規模で舞台芸術に関する言論というのが高まってくる。そういうものを少しずつ行っていくと当然波及していくわけで、波及していくと「じゃあ私もなろうかな」とかあるいは経済的にゆとりのある人とかだったら、少し誘ってもらったらすぐ乗ってくれるような人も出てくるかもしれない。

岡本:とりあえず、今(劇場文化に)触れてる人達の観劇意識を高めるってとこからはじめて。

あごう:なので、希望としては学生さんにも来てほしいです。今度、学生用の価格というのを準備しています。25,000円ならアゴラも含め、ここ(年間プログラム)に載ってないやつも含め観てもらえる(※3)。

金田一:あ、そっかアゴラの芝居も。

あごう:全部行けます。

金田一:割引とかじゃなくてタダで?

あごう:タダで行けます。

金田一:タダで!?アゴラのも!?

あごう:はい。

金田一:すごい(笑)

岡本:(笑)

あごう:で、お金としてはやっぱり高いといえば高い。だから出したところでそんなにすぐに反応があるという風には期待はしてないけども。まあ、気付いてもらえたら圧倒的に安いはずです。

岡本:うん。

あごう:年間プログラムが重要なのは支援会員制度と密接していること。つまり20,000円や30,000円払っても、払うに足るということです。

岡本:なるほど。先に年間プログラムがある、っていうのが見えるから。

あごう:そう。年間プログラムがなかったら募集をしても結局「何を見せてくれるの?」という風になる。やはり支援とかNPOと言っても、お金が絡んでいることだからそういう意味ではシビアなところは絶対あります。良い作品を上演してほしいというのは劇場も本気で思っています。貸し館と少し意識が違うのはまずそういうものが決定的にあるから。

岡本:そうですね、劇場とカンパニーが連携して。

あごう:貸し館というのは「お金ください」「ちょっとだけ値引きします、しません」ぐらいの話はあるかもしれないけど、「あとはご自由にどうぞ」という、そこで終わりと言えばそこで終わりですよね。

岡本:そうですね。

金田一:ここにきたらおもろい芝居やってるっていうイメージをつけとかないと。

岡本:ちょっと違う質問なんですけど、僕がこの間、アソシエイトアーティスト(※4)のショーケースを、劇団員と観にいかせていただいて、僕は多田さん(※5)とかのことを、実際に作品は観たことはなかったけど、調べたり話を聞いていたりして行ったら、面白いことやってはったなあと思うんですけど、劇団員が、全くその、演劇がどうゆう風に進化していってるかという文脈を知らないままにショーケースを観て、ポカーンとしてて、そういうお客さんの教育って言ったら偉そうですけど、お客さんが、アソシエイトアーティストとか面白い人がめっちゃきてるのに、それをあんま理解できひんていう土壌がある気がして、僕の小さいコミュニティの中では。そういうことに対する劇場側からの手立てみたいなものは考えてはりますか?

あごう:まあ十分ではないですが、専門家を呼んだレクチャーを予定しているとか、そういうものは拡充していくのと、あと少なくともここに載っている演目はすべて劇評をつけていきます。そうして舞台芸術にまつわる言論空間みたいなものを充実させていく。 そういういろんなナレッジみたいなものが劇場には集ってくるから、そういうものを集約して発信していくというのがレクチャーとか劇評だと思います。ワークショップもそうだと思いますが。

岡本:面白いですね。

あごう:少なくとも既存の考えられる手だてとしてはそういったものを発信していくというのを、少しずつ重ねていくということだと思います。その上で芸術性は基本的に更新するものだということを、どこかのタイミングでわかった方がいいかなと。

岡本:その、観客が、というか。

あごう:やってる方もですね。教えられたことを守るということも大事ですが、更新するということが歴史的にある。リアリティのある絵ばかり書いてるわけじゃない、絵画にしても。人の表現とは、基本的にはそういうものだということを早いうちに知っておくべきだと思います。

金田一:あいつらのは面白い、面白くないというところから、じゃあ俺たちのはどう面白いか?みたいなのを作っていかないといけない。そうでないと残っていけないですもんね。ずっと同じことをやっている人たちもいるけど、それなりに芯があってやってるし。

あごう:学生さんは本当に観た方がいいと思います。自分の作品や友達の作品にしか関心がないというのから、いかに脱却するかというのが端的な課題だと思いますし、アンテナが高い人ほど、もしこの道に進むとしたら、スピードは乗っていくでしょうね。

岡本:劇評とかレクチャーとかすごい興味があります。そういうの公表したら、見るんじゃないかな。どうやろ?

金田一:見ると思う。

岡本:見ますよね。

あごう:ちょっとずつやっていくしかない感じですね。それでおもしろいと思った人が言ってもらうというのが、なんとなく雰囲気が出ると思います。

岡本:劇場文化の広がりに関してですけど、ポピュラーなのか、ちょっと敷居の高い今の状態を保ちつつ、でももうちょっと広がるみたいなのか。分かりやすく言うと、映画とか観にいく感じで、演劇観にいこうぜとなる方なのか、美術館行こうぜという方なのか。

あごう:どうでしょうね。劇研は、舞台芸術に関する実験性に関してはすごく寛容な劇場だと思うのでそうであるがゆえに、先輩とか色々な人たちが巣立っていったというのがあって、チャレンジングな取り組みに関しては、寛容な劇場です。なので、それと大衆性とが相反する部分が出てくることもあります。沢山の人に関わってもらいたいという強い願いもあるけども、そもそもものを作るっていうことがまず大事。どっちかに振り切りたいです、ということではなくて、もちろん実験性が高まれば敷居感というものは出てくるでしょうね。でもそれはしょうがないし、そうあるべきですし、もっと言うと芸術というのは、求める人にしか手を伸ばさないですからね。

岡本:もの作りに対して真摯であったら、その結果、劇場の形がそれに適した方向になっていくならば、それはそれでいい?

あごう:もちろん、いろいろな手立ては考えますよ。まずそういうものは大事だからなるべく守っていかなければならないし、民間劇場が、もしかしたら最も自由な言論空間かもしれない。公共とかメディアとなってくるといろいろな規制が入ってくる。マスメディアになったらもっと。出来るものも出来なくなります。 ちなみに今、企業メセナをやりたいと思っていて。京都市内の高校演劇部に、うちの会員証を無料で配布するという。

全:へー!ほー!

あごう:それもアイデアの段階ですが、そういう風になったら、もっと若い人たちが劇場に通う様になります。そういったある雰囲気が、もう少し出てくるかもしれない。

岡本:なんか色々できそう。カンパニーと連携してるから、例えば5席分空けといて、その、劇場側が確保しとして、その5席の招待券を、学生劇団とか高校演劇とかもできそうやし。

あごう:でもそれは、色々なお金の問題も。そこが難しいんですね。だからいかにファンドレイズするかということ。

岡本:ファンドレイズ?

金田一:いかにお金を集めるかってこと。

あごう:例えば実績分で、毎公演2万円、3万円買い取ります、として、40公演やったら120万円とか。そのお金をどう用意するのかという、そこが本当に難しい。劇団もそうですが、民間劇場も別に余裕を持ってやってるわけじゃなくて、ほとんど無理に無理を重ねてこういうことをやってるんです。

※1... 田辺 剛。「下鴨車窓」主宰。劇作家、演出家。
   2008年から2014年までアトリエ劇研のディレクターを務めた。
※2... 現在のアトリエ劇研。1984年のオープンから1996年に改称するまでの名称。
※3... 2016年3月現在は年会費20000円の学生支援会員制度はアトリエ劇研公演のみ、25,000円の
   U-26支援会員制度はアトリエ劇研公演に加え東京のこまばアゴラ劇場、三重の津あけぼの座、
   愛媛のシアターねこの公演に対応している。 
※4...  アトリエ劇研が推薦するアーティスト。
※5... 多田淳之介、1976年生まれ。「東京デスロック」主宰。
   演出家。2015年、2016年アトリエ劇研アソシエイトアーティスト。

 

登竜門

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金田一:例えば、このシーズンプログラムみてても、年齢が高そうなのが、シニア劇団星組くらいなんですよね。たぶん40、ちょっといったくらいが一番上かなという感じ。老舗の関西でずっとやってる劇団が、アトリエ劇研でやるっていうのはあったりするんですか?

あごう:老舗の劇団って、単純に少ないんだと思うんです。くるみ座さんも解散されましたし。

金田一:そうなんですよね。だから、なんかやる側として、夢があるんだかないんだか、ちょっとわかんなくなってくるんですよ、これみてると。20年先おれたちなにやってるんだろうって。

あごう:あ、そういうことですか。でもそれはよくよく調べたらいいですよ。山下さん(※6)にしても多田さんにしても、劇研でしかやってないってわけじゃなく、世界の舞台でもやっています。こういう劇場は、若い人むけの登竜門的な存在でもあるし、アゴラもそうだけれども、またいったん他所にいったあとに戻って来る劇場でもあります。まだ若い人はわからないかもしれないけど、少なくとも、40過ぎても50過ぎても持続しているって現象が起こっていること自体がまずすごいんです。

金田一:すごいですよね。 あごう:もっというと、先輩のほうがいろいろいいなって思うこともいっぱいあると思いますが、若い人のほうがハードルが低いこともあります。お芝居をやるにあたって。

岡本:なんでもやっても許される。

あごう:それもありますし、お金も実はかからないし。多少人生の時間的浪費をしてもそんなにクリティカルに響いて来ないでしょう。

岡本:そうですね。

あごう:いろんな事情や用件が歳を重ねるごとに増えていくので、それを全部突破したうえで、なおかつそれでも演劇をやり続けるというのは、作業量が増える、一個の公演をする為に。おそらくそういう側面もあります。作業量というか、ある種の責任やリスクというような。

金田一:やっぱり京都でやるうえで登竜門なんですね。劇研は。

あごう:登竜門でもあるし、他所で活躍された人も、また新しいプロジェクトを低リスクで始めたいという時に、こういう場所のほうがいいんですね。

岡本:なるほど。 あごう:ここで一回トライアルをやってみて、行けると思ったら、じゃあまた次と言う、その循環の中でこういうスペースが使われるのが健全だと思います。

※6...  山下 残、1970年生まれ。振付家。2015年、2016年アトリエ劇研アソシエイトアーティスト。
 

 

(→中編につづく)