「劇場的春、京都」アーカイブ

「劇場的春、京都」実行委員会が2015年度より行った、京都の劇場インタビューのアーカイブを行うページです。お問い合わせは kyoto.e.season@gmail.com までお願い致します。

WEB連載 第3回「アンダースロー(後半)」

京都演劇の系譜をたどる劇場インタビューシリーズ

〜WEB連載 第3回「アンダースロー(後半)」〜


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gekiharu.hatenablog.jp

 

 

レパートリーがリピーターを生む

山口: 劇団員のみなさんは基本的に劇団の仕事だけで生活されてるんですか?

田嶋 アンダースローができてからそうなりました。でも、逆にそうしないとまわっていかない。だって、全員のアルバイトの予定を照らし合わせてたら公演できないじゃないですか。なんとかそれで、必死にやってますけど。

山口 大変!

田嶋 アンダースローも毎月、家賃や維持費がかかるので、公演をやる。レパートリーを順番に上演するんですが、やりながら気付いたのは、同じ作品を何回も観に来るお客さんが増えるんですよ。それが盲点でした。たとえば、今まで述べ5000人のお客さんを獲得しなきゃいけないって思った時に、5000人を呼ばないといけないと思ってたんですけど、ひょっとしたら2500人でいいのかもしれないって思ったら、可能性を感じたんです。たとえば宝塚や歌舞伎は、コアなファンの人が何回も同じものを観ますよね。そのこと、全然気付かなかったなって。

山口 確かに。

田嶋 繰り返し観るとおもしろいかもって思ってくれる人も増えていて、そうすると、ある演目の時は必ず来てくれるお客さんが出てきたり。あと、レパートリーの中でまだ見ていないものを見て全演目制覇しよう、みたいな。とても好循環ですね。だから、本当におすすめしたいです。

山口 劇場を持つこと?

田嶋 そうです。あと、レパートリーを持つということ。

山口 俳優が飽きない稽古ってどういう稽古なんでしょう。同じことをずっとやるわけですよね。逆に、たとえばレパートリーが6あったら、それぞれの台詞がぜんぶ違う。全てを覚え続けるのも大変だと思います。そのモチベーションはどこにあるんだろう。

田嶋 俳優の誰かが言っていましたが、噺家のネタ数は、100ぐらいまでいけるそうなんですよ。噺家って1時間ひとりでしゃべってるから、相当頭の中に入ってるってことですよね。舞台俳優は噺家とは違うけども、どこまでできるかなって言ってます。一方で、『かもめ』のアンダースローでやってるバージョンは、ほぼ主人公のトレープレフが一人語りの体でずっとしゃべるっていう作品なんですけど、トレープレフ役の俳優がカラッカラになっちゃうから、『かもめ』は1回で4ステージが限界だと言っていました。

山口 100ステージある公演とかに出ると、10を越えたあたりから劇場に通うこと自体が拷問のようになってくるって言っている俳優の話を聞いたことがありますが、ぞっとしますね。

田嶋 地点では三浦が必ず毎回の上演を見て、ダメ出しもするし、ちょっとずつ演出を変えたりするんです。飽きないためにも、そういう調整をしてるんじゃないかな。

山口 演出家が飽きないっていうことが一番重要なのかもしれませんね。

田嶋 規模の大きい商業的な作品だと、公演が始まったら演出家が現場から離れることもありますが、小劇場って演出家が本番を直接観ることが多い。演出と俳優で作る演劇作品をいちばん楽しめる表現形態だと思うんですね、小劇場演劇って。やっぱりそこのおもしろさを、人に見せたいですよね。

 

 

作品が出来ていく過程に立ち会うことから見えるもの

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山口: このインタビューには学生劇団で活動しているお二人にも同席してもらっているのですが、なにか質問はありますか?

坂本 合議制で決めているのがすごいって思いました。演出家のようなポジションの人だけにビジョンがある、というのが陥りがちな状況かと思うんですが、全員が同じものを見ているっていうのが大事で、その手段として多くのミーティングがあるんだろうなって。

田嶋 全員が同じものを見るというか、実は違うものを見ているってことに全員が気付くっていうことかもしれないですね。作風とか劇団にもよると思うんですけど、稽古ってけっこうミーティングみたいで、決まらないことをずっと決めてるようなところありますよね。

山口 作品を作る時、演出家と俳優のディスカッションはどのくらいあるものなんですか?

田嶋 まず、読むんですよね、テキストを。で、演出家のコメントがちょっとあって、終わり。何回か読んで、台詞の割り振りをして、俳優が覚えたい台詞を覚える。演出家に強いイメージがある場面があって、ここは絶対やるとか言うと、そういう一言はみんな心にとどめておく、でも基本はみんな好き放題にやってる感じですね。テキストレジの作業を稽古で同時にやってくんですよ。机上のプランは一切なくて、稽古しながら決めていくんです。

山口: やっぱり、ある種の合議制なんですね。

田嶋 暗黙の了解で役割分担が行われたり、それぞれの人のひらめきや妄想もある。それらを稽古場ですりあわせてやる感じですかね。山口さんはご自身で劇作もされるから、きっと少し違いますよね。地点は三浦が一切戯曲を書かないから、テキストが誰にとっても異物であるっていう稽古の連続。それでこういう形になったのかもしれないです。
 実は私、今はすべての稽古に始まりから終わりまで、他の作業をほとんどせずに参加してるんです。以前は、稽古場にいても自分がやることがないから、それだったらみんなのためになにかできることをしていたいと思ってパソコンで仕事をして、たとえば終わりの2時間ぐらい稽古場に行って様子を見る、とか。それが変わったきっかけは、KAAT 神奈川芸術劇場(※8)の滞在制作。劇場の主催事業だから担当の制作者はすでにいるし、私、なにしようってなったんですよ。そこで、稽古を見ながら切れ切れのテキストを台本化するとか、演出助手のようなことをやりながら、初めてひとつの作品の稽古に一から十まで立ち会った。それがけっこう楽しかったんですね、やっぱり。
 その2012年2月以降は全部稽古にいるようになりました。自分ひとりで票券も広報も担っているから、稽古場に自分の興味を満たすために行くよりは、ひとりでも多くの観客を呼べる作業を稽古場以外でしていた方がいいんじゃないかって葛藤を抱えながらやってきたんだけど、そうではない恵まれた機会が与えられてからは、やっぱり制作者も絶対に稽古場にいるべきだなって思いました。稽古場にいることで滞る制作の仕事は、時間や労力で解決できるものがほとんどだし、一方で、稽古のプロセスを見ていることで公演の企画書は格段に書きやすくなって、効率化された部分もあるんですよ。

山口: 創作している側は制作者に稽古場を見ていてほしいといつも思っているので、理想的ですね。創作の中心ではなくて、ちょっと離れたところから見ているひとがひとり稽古場にいるのはとても重要です。

南里 今、私も演出助手をしているので、制作者が見ているっていうことの重要性を感じます。

 

※8 KAAT 神奈川芸術劇場
2011年に開館した神奈川県立の劇場。芸術監督・白井晃(2016年4月より)。地点は「KAAT×地点共同制作」として開館当初から劇場での滞在制作による新作の制作/発表を行っている。http://www.kaat.jp/

 

 

続けていくこと、そして次の一歩へ

山口: この場所のまわりの人たちとの関わりはどういった感じですか?

田嶋: 近所の人で、毎回必ず来てくれる人もいます。ブレヒトチェーホフをやっていると、表の案内を見かけて来てくれる通りがかりの人もいますね。ただ、もっとがんばらなきゃいけないのかもしれないけれど。

山口: たとえばアトリエ劇研であれば、いろんなアーティストが公演していて選べるから、近所の人に来てもらいたいっていう気持ちも強いと思うんですけど、たぶんアンダースローは地点を見に来るから、地域の人との関わりが必ずしも重要じゃないのかもなって、勝手な印象はあるんですけど。

田嶋: ビルの一階の靴屋さんの人に必ず挨拶したりとか、いわゆるご近所づきあいはありますよ。このあたりにある食べ物屋さんは全部知ってるとか。アンダースローをやっていたら私は1日に2食はこのあたりで食べないといけないから、定食屋さんに行くじゃないですか。でも、定食屋さんは別に一生演劇見なくても大丈夫。なかなか、ここがね。でも、こういう場所があって、やってる人がいて、知らない世界がある、あやしいね、ってことがアピールできればいいような気もする。

山口: 確かに。いつか何かのきっかけで、演劇に触れてもらえるかもしれない。

田嶋: やり続けることしかないですね、戦いは。

山口: 本当にそうですね。この後の展望はあるんですか?

田嶋: アンダースローは、できることが本当に限られているんです。舞台用の照明機材ってふたつしかなくて、あとは家庭用の電気。公演の頻度も高いから照明と音響のオペレーションは制作がひとりでやっていて、手は2本しかないから同時に複雑なことはできない。

山口: 物理的な壁ですね。

田嶋: それが長続きの秘訣でもあるんですけど。アンダースローは観客が俳優を見に来るっていうすごくシンプルなかたちで、だからこそ人を魅了する力もある。でも、舞台芸術ってもっといろいろなことができる。アンダースローのような至近距離じゃなくて、たとえばもっと広い空間で、遠くで小さく見えている人が大きく迫ってくるってこともやっぱりやりたいじゃないですか。そう考えると、もともとアンダースローをずっと守っていけばいいんだっていう感じではなく、通過点としての最初の一歩として捉えて、次の一歩をどう踏み出すかみたいなところを考え始めたいなと。もう次?って、ちょっと早いかもしれませんけど。もちろん、全部自分たちでやろうと思ったら大変だから、どこかからいい話がやってこないかなっていう思いは常にあります。でも、アンダースローをやりはじめてからは、絵に描いた餅を眺めて妄想をふくらませつつも、自分たちで着実にやっていく、その中で何かが出来ていったらいいなって思っています。

山口: いいことがやってくるには続けてないといけませんしね。

田嶋: そう。私、昔からすごい持久走が得意だったんですよ。

一同: (笑)

田嶋: 短距離走は苦手なんだけど、ずっと走る分には出来る。人には向き不向き、スタイルがありますよね。もうちょっと続けていきたいなって思っています。だんだん楽しくなってきてるから、もっと楽しくなるのかな? みたいな。

山口: 今日はおもしろい話がたくさん聞けました。当然、三浦さんもすごいんですけど、田嶋さんの存在は、相当大きい。つくづく思いました。ね。

南里: 地点にとって田嶋さんの存在がとっても大きいと思いました。

山口: 自分で考えて自分で変わっていける制作者ってすごい。

田嶋: 褒め殺しですね。(笑)

山口: 今日はありがとうございました。



アンダースロー http://chiten.org/under-throw/
地 点     http://www.chiten.org/



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<プロフィール>

田嶋結菜 たじま ゆうな
地点制作。1980年神奈川県生まれ。国際基督教大学ICU)卒業後、青年団こまばアゴラ劇場に勤務。
アトリエ春風舎のこけら落とし作品として上演された『三人姉妹』(2003年)以降、すべての地点作品及び三浦基演出作品に関わる。2005年、地点の京都移転にともない、演劇活動の拠点を京都に移す。
2007年までの京都芸術センター勤務を経て、同年より地点の専属制作者。

山口 茜 やまぐち あかね
劇作家、演出家。京都を拠点とするトリコ・Aとサファリ・Pという二つのカンパニーを主宰している。
近作にサファリ・P第二回公演『悪童日記』の構成・演出、カンパニーデラシネラ白い劇場シリーズ『小品集』(演出・小野寺修二)へのテキスト提供など。2015年度よりアトリエ劇研アソシエイトアーティスト。
2016年度よりセゾン文化財団シニアフェロー。

坂本彩純 さかもと あすみ
同志社大学文学部国文学科在学。演劇集団Qに所属。役者として活動中。

南里初陽 なんり はつひ
同志社大学文学部哲学科在学。2016年、演劇集団Qを引退。