「劇場的春、京都」アーカイブ

「劇場的春、京都」実行委員会が2015年度より行った、京都の劇場インタビューのアーカイブを行うページです。お問い合わせは kyoto.e.season@gmail.com までお願い致します。

WEB連載 第4回「アトリエ劇研(後編)」

京都演劇の系譜をたどる劇場インタビューシリーズ

〜WEB連載 第4回「アトリエ劇研(後編)」〜

 

いままでと、これから

金田一:すごく未来の見えるお話が聞けたんじゃないかと思うんですが。過去のことについてはあまり聞かなくてもいいかなと。

岡本:そういえば、30年史が。

杉山:もうすぐでます(※23)。出る出るといってもう2年になろうとしていますが。

金田一:ちょうど去年が30年だったんですね。

杉山:そうです、2014年が30年。1984年からなので。

岡本:僕は生まれてないですね。

杉山:めっちゃ短く言うとなると、30年を振り返って編集をしたんですけれど、やっぱり劇場は人だと改めて思ったということがあります。スタッフもお客さんも含めていろんな人がそれぞれ有機的に関わっている、関わらせられたんじゃなくて、関わりたくて関わったんだという、それが作ってきたものが、生み出したものが大きい。だからこそ、生き生きとした劇場になったんじゃないかと。

岡本:人が、能動的に。

杉山:そうなんですよね。で、過去を振り返るとあの時こういう作品をやってたのかという具体的な事が分かると思うけれど、やっぱりそこでその時代なりに色々考えて人が関わったというのが歴史であって、そこがすごく場の価値を高めたんじゃないかと思う。そういうことは例えばこういう物理的な場所がなくなるということで全部忘れ去られちゃうので、30年史を作ろうとしたことの大きな動機は、忘れられないようにしておくということ。それがおそらくどこの、他の地域の劇場であっても、生き生きとした劇場はそういう歴史があると思うんだけど、共通する物じゃないかなと思う。

金田一:ちょっと長くなっちゃうかもですけど、遠藤さん(※24)がいた頃とそこから後は変わったことがあったりするんですか?

杉山:変わったと思いますよ。それはやる人によってその趣向によって全然違うから。遠藤さんは豪腕だったから、ぐいぐいとやってきたんだけれど、遠藤さんが劇場という場所を使ってやりたかったことの機能の一部は芸術センターにいったと思うんですよ。例えば専門的な育成とか、コラボだとか、作品を作るとかいうのは、小規模な民間劇場では難しいところがあった。東京からアーティストを呼んで来てコラボするとか、アーティストインレジデンスをやるとか、それらの機能は芸術センターができて芸術センター(※25)に流れたと思うんですね。で、一部はまたアートコンプレックス(※26)とかにもに流れたと思う、商業的な感じのものもやっていたし。
 で、機能が分かれたことでより純粋化するというか、じゃあ劇研はどういうことを担おうかと。それがアトリエ劇研になってからの課題だったから、その中でその社会との関わりとか人材育成とかに発展していった。

金田一:これはいいこと聞けましたね。これはちょっと面白いですよね。

杉山:また使う人がいなくなったら、次の時代は誰かに特化した劇場になるかも知れないしね。それは時代に拠る。

岡本:常に時代と共生してる感じがある。

杉山:そう、時代とか環境とかね。2000年を境に本当に京都の芸術環境は実は豊かになったんですよ。芸術センターができて、アートコンプレックスができて。

金田一:2000年に大学に入学してきて、すげえじゃんここと思ってたんですよ。

杉山:ああ、そういう世代。そういうことなんですよね。そういう風に、そこから後の世代は当たり前と思っているかもしれない。ここから後は縮小に向かっていくから、その時にどういう選択をしていくかということになると。

あごう:ひとまずロームができてある種の完成形ができましたね。

杉山:ピークになると思う。

あごう:ひと揃えありますからね。

杉山:芸術センターで出来た流れが今度はロームシアターに引き継がれるから。

金田一:うんうん。

岡本:すごい。

杉山:これは環境としては少子化で若年層の観客が減るとか、観客の多くがシニアになっちゃうとか、そういうことが起きてくるとやっぱりシニア向けの演目とかが増えるだろうし、若い人に活力を与えるような活動というのはどうしたらよいだろうとなると思うよね。そういうときにより魅力的にして他都市から才能を呼び込むことができるかとか、東京への流出を食い止めるとか。京都としての環境を守るなりの活動をしていくようになるんじゃないかなあと予想しています。

金田一:なんか、ちょっとしたイメージだとロームができたら全体的に薄まっちゃうみたいな、客が全部あっちに流れちゃうとか。

杉山:ある意味あると思うけれど、実は総観客数が増えればお互いにメリットがあるはずなんですよ。

金田一:そうですね。

杉山:協力していくっていうのが大事。みんな困っていることとか課題とかって一緒だから。予算どうする採算どうする。動員どうする。いい作品作るにはどうする。お金をさらに集めてくる方法は何か。たぶん全部おんなじ課題だから。

金田一・岡本:面白かったです。ありがとうございました。

 

※23... 「天に宝を積む-アートスペース無門館からアトリエ劇研まで30年のあゆみ-」
    特定非営利活動法人劇研(著)。現在販売中。
※24...  遠藤寿美子(1937~2003)。1984年にアートスペース無門館(現在のアトリエ劇研)
    を設立。演劇プロデューサー。
※25... 京都芸術センター。旧明倫小学校校舎を使用して2000年に開設。
    演劇の作品制作や公演も行われている。
※26... アートコンプレックス1928。旧大阪毎日新聞社京都支局ビル で、1999年に劇場として
    オープン。客席数は最大200席余。2012年より2016年現在に至るまで「ギア‐GEAR‐」
    専用劇場としてロングラン公演中。