「劇場的春、京都」アーカイブ

「劇場的春、京都」実行委員会が2015年度より行った、京都の劇場インタビューのアーカイブを行うページです。お問い合わせは kyoto.e.season@gmail.com までお願い致します。

WEB連載 第4回「アトリエ劇研(中編)」

京都演劇の系譜をたどる劇場インタビューシリーズ

〜WEB連載 第4回「アトリエ劇研(中編)」〜

 

二つの視点

金田一:杉山さんもいらっしゃったので、杉山さんにも聞けることを。
さっき、登竜門という話があったので、歴史的なことを聞いてみたいと思います。その前に、杉山さんの立場って劇研とはどういう関わりから始まるんですか? 


杉山:いまは劇研を運営しているNPOの役員、理事で事務局長をしています。劇研はそのNPOのなかの一つの事業です。元々、法人、NPO劇研っていうんですけど、法人も2003年に作ったんですけど、当時は法人の事業=劇研の活動だった。この劇場がすべてだった。そこから(いまは)色んな事業をしているので、増えていってます。私自身は、2000年から2008年までここのプロデューサーとして劇場に勤務していました。

金田一:そのあと、田辺さんになってということですね。

杉山:そうですね。

金田一:劇研ならではとか、例えば登竜門的な話が出たので聞きたいのですけど、劇研から出て来て、輝いているんじゃないのっていう劇団って、いっぱいいるものなんですか?

杉山:まぁいっぱいいると思います。劇団とか芸術の評価はすごく難しいと思いますけど、ここは大事なところだと思うのですが、二つ大きな視点があって、演劇のなかでどうかという視点が一つ。例えば、演劇のなかで新しい表現とか、より今の時代の質感にあった表現とか、演劇のなかで何かをしてきたという文脈があって、いわゆる芸術とか文化ってくくられるものの評価とか、批評とかいうのは、だいたいそこの中でやっていることが多いんですよ。芸術のなかでの評価がどうかっていうことね。
 もう一つは、今すごくホットなのが、社会の中で芸術はどう働くべきかという視点だと思うんです。
もう多くの芸術家はそういう視点で活動を始めている。例えば、日本では、震災があったりしたんで、それで多くの人が考えたんじゃないかな。 今、NPOでやってることのなかで一番力を入れてるのがそういうことなんですね。社会の中で、芸術がどうかという視点。この視点から作品を観るというのも新しい切り口として今後出てくるんじゃないかなという気がする。それはいろいろ考え方があるけど、あの有名な鈴木忠志さん(※7)が利賀村になぜ行ったかという話のなかでそういうこともしていて、彼は利賀村に行くってことが芸術を通じた社会運動だって言ってて、そういうことと近いかもしれない。社会や地域に対してどういう影響を与えるかという視点。 それで、アトリエ劇研という場所は、あごうが話したと思うんですけど、小さなブラックボックスという特性があって、それはある意味、宿命的に育成の場になるようなところなんですよね。どうしてかというと、お客さんがたくさん入って来たら、採算合わないからやりづらくなるっていう、ただそれだけのシンプルな理由なんです。

金田一:はい。

杉山:で、それは逆に言うと、例えば、低コスト低リスクで実験ができるとか、演劇を始める人とか経験の浅い人たちにとって、いきなり何百とかいう集客が難しいわけだから、入り口としてはとてもいい。 だから結果的にその中から人が出ていくってことは、物理的に宿命的にそういうものだと。
 そこに今どうして芸術家をディレクターにつけているかというと、その中でその芸術性という視点、つまりどういう風に作品を観ていくか、評価していくか、芸術的視点はとても大事だと思っているから。だから芸術的視点を重視したディレクターというポジションと、わたしのようにプロデューサーよりの社会的視点とのバランスを取りながら運営する。 一つの切り口だけでアーティストを評価すると、例えば、こんな作品は古くさいよとか、こんな作品は子ども向けじゃんみたいなことで、いわゆる芸術的指標からはこぼれがちなものとか、そういうのを別の視点からみると、また違う光をあてられるかもしれない。
 そういった有機的なというか、置いとけば物理的にどうにかなるってことだけじゃない、そこに人の手が加わることで、有機的にいろんな形で作品が出て行くというような場になればいいなと思っています。

※7)... 1939年生まれ。「SCOT」主宰。演出家。1976年より活動の拠点を富山県利賀村へと移転。
 

 

社会に活かす技術

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杉山:それと、演劇をやっていること、演技みたいなアナログなことがもしかしたら社会に活きるかもしれない。今話題になっている例えば教育の中で演劇を使ったワークショップをやるとか、あと今うちが取り組んでるシニア、高齢者の健康を維持するためとか、コミュニケーションを増進するために演劇的手法を使うとか。こういうことはまた違う価値を創造すること。それはエンターテイメントとしてやっていく技術とは似て非なる技術だし、視点とか感覚の持ち方もまた似て非なるもの。 劇場にはそういう様々な感覚や価値観が混沌として現れていると思う。これが例えば京都劇場(※8)みたいなところだと集客に重きを置いた作品、例えば「エンタメ」系のようなものが主体となるわけ。 それは当然物理的にそうなる。だから飛天(※9)、飛天って言わないのかな今。大阪の大きい劇場なんかだと商業演劇をやっている。それはそれにふさわしいことになる。

金田一:ドラマシティ(※10)みたいな。

杉山:そう。でおそらく京都会館(※11)なんかもそうなる。2000席の劇場は2000席の劇場なりのものが並ぶ場所になるはず。だから、そういうことの中で、それが2000席だからいい劇場、80席だからだめな劇場、ということではない。その機能の問題と、社会の中の役割というふたつがすごく大事なこと。今、特に社会の中に、社会が画一化してんじゃないかっていう危惧というか空気、漠然としたものがあって、その中で、いやいやそれは違うんじゃないのとか、こういう価値観もあるよという多様な感覚や考えを出すっていうこと、それを社会が肯定することが大事なんじゃないかと思う。 そういうときに劇場がすごくいい、大事な場所になるんじゃないかと思うんですよね。つまり口当たりのいいものばかりを与えようという風に作り手が思うことに半鐘を鳴らすという。それは社会に迎合していくこと。
 宮城賢さん(※12)という人が言ってたけれど、ディズニーランドだったらみんなお金払って行きたいよね、でも学校の勉強は行きたくはないよね。でも勉強が大事だということはなんとなく分かるよね。でもなぜ勉強が大事か、それといい演劇なんかは似てて、今すぐにこれが分かるわけじゃないかもしれないけれど、見ていくと後々それがいい演劇だったということがわかって来るんだよと言っていて、それが大事なことだと思う。 劇場で今こういうものを見るということが、今は分からないかもしれないけれど、何年か先に分かってくるかもしれない。やっぱりそういう活動をしなきゃいけないなと思うわけです。

金田一:観劇意識の高い客っていうのはそういうことですよね。どんなものでもなんか面白いものなんだって言う。そういうお客さんがどんどん増えていければいいですよね。

岡本:楽しくない奴もなにか面白いところがあるかもしれないと思えるような。

杉山:それは両方あって、いい観客は作り手の意識も変えてくんじゃないかっていう。やっぱり厳しい観客でもあるかもしれないから。作り手がそういう意識で作ってないなっていうのは見抜かれちゃうから。または技術が稚拙だなとか、分かられちゃうんで、両方いると思うんですよね。

岡本:お客さんとか社会に対するアプローチと、作り手の意識の構造へのアプローチを同時に行わないといけない。

杉山:そうそう。最初は誰でも初心者なんだから、何年間かは色々試したり訓練したりするのだって時間がかかるから。そういう時間はどうしても要ると思う。そういう時間を与えてくれる場所なんじゃないかと思う。

金田一:もしかしたら話がずれるかもしれないですけれど、アトリエ劇研が例えばいきいき市民活動センター(※13)を運営しているというのは、なんかそういうつながりというか、連関があると思っていいんですかね。

杉山:そうですね、まあ劇場は劇場でセンターはセンター。あれは市の施設で設置目的というのが条例で決まっていて、それはちょっと話が長くなるけれど、さっき言ったように社会と芸術文化がどう関わるかというひとつの方法で、例えば、フランスでちょっとだけ研修したことがあるんだけど、そこで見てきたのは、フランスなんかだと劇場を移民が多い地区に建てて、そこで文化事業を地域事業と絡めながらやるということをやってたんですよ。
 あと例えばアメリカなんかだとソーホーという場所があって、今は高級化してしまったけど以前は斜陽になった産業の倉庫街だった。そこにアーティストが安いからという理由で住んだりアトリエにし始めて、そこからアンディ・ウォーホル(※14)みたいな人が出てきたりしたからそこが注目されてアーティストがドバっと住んで町が変わっちゃった。それは名村でやってる小原さん(※15)もそうだけど、アーティストが入ることによって町が創造的になっていく。それは90年代くらいから言われていた。そういうことに近い発想なんだけど、町というものはそこに住んでる人たちがどういう町にしたいかで変わっていくもので、例えばお年寄りで困っている人が多いからお年寄りを助けたい、助けるためにはどういう活動をしようか、みたいな人たちが勝手連で動き始めて、変わっていく。町が汚れているからゴミを拾おう、週一回のゴミ拾いをみんなでやろう、みたいな事が町を変えていくわけで。
 さっきの倉庫の例じゃないけど、そういうところは寂れていくといろいろな問題が出てくる。以前はそうしたことに行政が直接対応していたけれど、それが近年市民の力でやっていきましょうと変わってきた。そうした状況の中で芸術・文化にもできることはあると思って、行っているんです。

金田一:ええ。

杉山:つまり文化は、人の心を本質的に変えていく活動だから。差別や貧困だって演劇ではたくさん扱われてきたテーマだけど、そういうことは結局人間の心の問題であって。私達の本質的な活動は人間の心や考え方、価値観を変えていくこと。私はこんな風がいい社会だと思いますよということを伝えていく。その伝え方が演劇だったり、会話でもいいわけだけど。そういうことが社会、地域を変えていく、これが大事なことだと思ってる。演劇や文化活動も結局市民活動のひとつだから。
 

※8...  JR京都駅構内にある劇場。客席総数941席。
※9...  現在の梅田芸術劇場メインホール。客席数1905席。
※10... シアター・ドラマシティ。梅田芸術劇場のホールのひとつ。客席数898席。
※11... 客席数、第1ホール2005席、第2ホール946席。1960年に開館、2012年に閉鎖し、
    改装ののちロームシアター京都として新たに2016年1月に開館した。
※12... 1929年生まれの詩人、翻訳家。
※13... いきいき市民活動センター。京都市内に13館存在する、市民活動を支援する施設。
※14... 1928-1987年。アメリカの画家。
※15... 小原啓渡氏 1960年生まれ。1999年アートコンプレックス1928を立ち上げ、
    プロデューサーに就任。大阪住之江区名村造船所跡地をクリエイティブセンター大阪
    として再生させた。 
 

 

物理的な条件と創造性について

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金田一:この間、劇団しようよの稽古であごうさんがインタビューされていて、その時にもあったんですけど、劇研の特徴が、ブラックボックスであるとか、設備がちゃんとしてるのとか、それでこのキャパでっていうのはやっぱり劇研なんですよね。

あごう: まあ、京都ではこの装備でこの様式、人も物もこのサイズで揃っている劇場は他に単純にないということでしょうね。

金田一:それで、ここでちゃんとできるんだったら他にもそれこそ東京行っても、応用っていうか。

あごう: この劇場でクオリティ高い作品をつくれるということは大方どこに行っても大丈夫だと思います。

岡本: 学生会館のホールをちょっと幕張ってとかいうのと、作り方が決定的に違って、やっぱりこのブラックボックスでお芝居をつくるっていう経験は、一回やらしていただいたんですけど、すごい経験だったんで、もっとそういう機会が増えればなって。

杉山: ええ、ぜひ。ぜひっていうか、知らないとね、価値がわからないと思う。空間は狭いんだけど、空間構成がすごく大事なんですよ。ビジュアル的に。空間構成にすごくセンスが必要だし。そういうことをあんまり気にせずにだと別にどこでもいいじゃない、カフェでも。ここだとほんと全部作りこむことになるから。

岡本: 全くゼロ、ほぼゼロからつくる。

金田一: それはなんだかいいよなあって思う。

あごう: 役者の基礎でも、まずニュートラルな身体を作るというのは「いろはのい」ですよね。コントロールを高めるための一つの足場を作るのが基本。演出家も、なにもないニュートラルなところでなにかを造形していくセンスがないと、ノイズだらけの場所でしかやってなかったら、いったいなにがノイズでなにが自分が持ち込んだもので、そのノイズに対して自分がどういう考えで入りこんできているのかっていうことについて自覚できないままやらざるをえない。それは訓練されていなければ仕方がない。こういう(アトリエ劇研のような)ところで訓練してから、そういうオルタナティブなスペースに自分の考えを作っていくセンスを養う。

金田一:はい。

あごう:そして、もうひとつ劇場がなぜ重要かというと、これも端的な理由があって、仮に野心がある、出世するんだ全国だ世界とていう場合に、その先に待ち受けているのはそれも劇場なんです、基本的に。リミニ・プロトコル(※17)とかPortB(※18)とか、特殊なカンパニーの作品創作上のコンセプトがない限り、基本は劇場。だから、劇場で培われるべき技術とかセンスとかっていうものは全セクションがチームで持っておかないといけない。というのは、別に僕が決めていることじゃなくて現実そうなっていることです。

岡本: 何処にどれだけ行こうが劇場がある。そうですね。

金田一: ロームシアターっていうのができるじゃないですか。2000人入るのと700人入るのと200人入るのと。僕、学生のころ京都演劇すごろくっていうのを自分の中でつくっていて、例えば、僕は同志社だったので、新町で(お客さんを)何人入れるみたいな。そこで卒業したら劇研でやるか西部講堂でやるかみたいな。そういうすごろくがあるんです。で、アトコンがちょっとしたトップにあったんだけど今はギアをやってるし。で、たぶんロームシアターがこのすごろくの中に入ってくるんじゃないかなって思ったりする。そうしたらこの劇研はどうなってくんだろうなって思っていて。ロームシアターと劇研の立場っていうか。

杉山: それは、いい質問ですね。さっき言ったように、物理的なことでだいたい決まってくる。ロームシアターに出来るいわゆる200席規模の劇場が、実験系の演劇のゴールになると思う。どうしてかっていうと、200席っていうのは、例えばわかりやすく3ステージにしようか、600人のお客さんを呼ぶ力があってってことなんですよ。京都で内輪だけじゃなくて一般のコアなファンを呼んでこれる力がある劇団の集客の境目が500-600やと思う。実験的な演劇やっていて700人呼べる劇団っていうのは一般的にかなり評価されていると思っていい。今だと地点(※19)とかマレビトの会(※20)だよね。そのぐらいが700キャパ。そういう人たちがロームシアターでやる。で、わたしたちの劇場では、その次の500以下、100から500の劇団がやる。やる立場として選んでいけば、合理的なことを考えるとそうなる。
 で、もうひとつ、エンタメ系はどうなるか。つまりお客さんを呼んでなんぼっていう劇団はどうなるかっていうと、うちだと500を超えるようなことになるとたくさんやらなきゃいけなくてコストが割にあわなくなるから、だいたい600から1500はロームシアターの小(ノースシアター)でいけると思う。そして、やっぱりエンタメ系はさらにその上にいかないといけない。3000人規模になってきた時に、中(サウスホール)ぐらいだと思う。ドラマシティ規模。そうすると、公演回数が少なくて、実入りがよいという流れになっていく。ただ、そうなることで実は府立文芸(※21)とかがちゃんと機能すると思う。

金田一: そうですね春秋座(※22)とかも。

杉山: 春秋座はちょっとでかすぎる。1000席はドラマにとってちょっとでかすぎて、歌わなきゃいけなくなるから、音楽劇にしないと。で、音楽劇が2000席いけるの。なんでか、台詞わかんなくても感動するから。観るものじゃなくて聴くものになるから。それはとてもシンプル。歌舞伎はやっぱり音楽劇でしょ。おんなじように、ある規模になると音楽劇に移行せざるをえなくなる。だから文芸400からドラマシティ600席がドラマが成立する限界だと思う。ここがエンタメ系のゴール。お客さんが入ったらいいとか悪いという判断でいうと、そういうすごろくになるはず。でも、大事なのは劇場は機能が別なんで、劇研で3000席もなに考えとんねんっていう話だから。笑

金田一:どんだけロングランやるんだっていう。笑

杉山: そうそう、途中でぜったいやになる。やればやるほど赤字になっていく。笑 ふたり芝居の音楽劇とかだったらいいよ、ロングランの可能性あるけど。

岡本:その、実験的なやつが、完成する前ぐらいの状態のほうがおもしろかったりしますよね。わかんないですけど。ぼくは劇研おもしろそうかもしれない。

杉山: だから、劇研はたぶんそういういろんな人たちがいる、またはいろんなことにチャレンジしようっていう野心的な人たちがいる。そういう場がふさわしそうだと。 ロームシアターとかではやっぱり満席が続くというか、ロームシアターにお客さんがついて、ある程度の完成形を見せる場所になる。その裾野を下支えするのがこういう場所(アトリエ劇研)だと思う。 
 

※17...  2000年にドイツ、フランクフルトで結成されたアートプロジェクト。
    実在の人物や事象を舞台上に取り上げるドキュメンタリー演劇を行う。
※18...  2002年に高山明を中心に東京で結成。実際の都市を使ったインスタレーションなど、
    劇場を離れたパフォーマンスを積極的に行う。
※19...  演出家の三浦基(1973~)を代表とする演劇集団。
    2005年に活動の拠点を東京から京都に移し、活動本格化。
※20...  松田正隆(1962~)を代表とする演劇集団。2003年に京都で設立。
※21...  京都府立文化芸術会館。1970年に舞台芸術公演、美術、工芸などの展示の
    総合施設として開館。
※22...  2001年に今日と造形芸術大学内に設立された京都芸術劇場のホール。客席数843席。

 

(→後編につづく)